町中のオアシス
雑木林みーつけた
1998/4/21号より
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安房口神社参道

 木洩れ日、野鳥のさえずり、葉音が奏でるリズム…。土の香りのする曲がりくねった雑木林の小径を歩く時、せわしない日々を送る街の暮らし人もきっと、少年や少女の頃遊んだ懐かしい思い出が一つや二つ浮かんでくることでしょう。緑も激減傾向ですが、それでも街なかから容易に自然に帰れる場所がまだまだ残っています。初夏も間近の雑木林を歩いてみませんか。樹々にこもる生命の強さに心を打たれることでしょう。

里の人々の心の故郷
横須賀市吉井安房口神社の森

 宅地造成の波から守られた安房口神社の森は、吉井池田住宅地(現在の入口は桜ガ丘側)のてっぺんにある。青空に浮かんでいるような深い緑が印象的だ。森の樹々はマテバシイ。造成前はもっと沢山のマテバシイが密集し、昼なお暗い参道はおどろおどろしかった。そのためアキノギンリョウソウやマヤランなどの珍しい腐生植物の宝庫だったが、今はもう見られないようだ。なにはともあれ、この森は吉井の里の人々にはいつまでも心の故郷に違いない。


四季折々の風情が楽しめる
逗子市久木・久木大池

 今日は逗子ハイランド側から行ってみることに。ハイランドのメイン道路の2つ目の信号を越え、磯見形成外科の前の道を右折すると久木大池の標識が。下る階段の途中のケヤキ、コナラ、サクラ、ブナ、モミジなどの新緑が目に鮮やかだ。樹々の間から水面が見える。湖?(まさかネ)農業用の溜池だったという久木大池は上段と下段2つに分れた、いわゆるひょうたん型で合わせて6千平方メートル余り。一瞬、緑に映える池の中央で遊ぶアヒルを白鳥と錯覚してしまったほど、深閑としたたたずまいは、小さな小さな湖の雰囲気をたたえている。
 自然たっぷりのこんなスポットが住宅地からすぐのところにひっそりとあるなんて…。池を渡る風に身を任せていると、なんとなく安らぎと落ち着きをとりもどした気がした。


潮騒の浜辺は心をいやしてくれる
金沢区野島


平潟湾に浮かぶノリヒビの林

 潮風に鳴る松…。そんな風景は自分を空っぽにできるひとつのシチュエーションだと、久しぶりに追浜からちょっと足をのばして野島へ。折しも桜の真っ盛り。松の緑に映えてその美しいこと! その林の中に茅葺き屋根がすばらしい調和でたたずんでいた。これぞ、かの有名な明治の元勲伊藤博文の別荘だったといわれている。潮騒を欲しいままにしたこの家は、つまるところ究極のぜいたくだったのではないか。自然界の環境音楽は、訪ねる人をホッとさせてくれる。


江戸時代を切りとったような古道を歩く
横須賀市浦賀のお林


 横須賀市吉井から高坂方面へ抜ける山道がある。江戸時代、奉行所のあった浦賀までの往還道「浦賀道」だ。この辺り、江戸幕府のご用林だった「お林」があったところ。(今も土地の人はここをお林と呼んでいる)木もれ日をチラチラと映すこの道は、まるで坂本竜馬と出会いそうな独特のたたずまいを見せている。
 そういえば、坂道沿いにある真福寺観音堂の格子天井には、北斎ではないかと言われる画が見られる。北斎もまた、一時期浦賀のはずれに住んでいたとみられているのだ。
 壮大なロマンを胸に、江戸時代の一場面に入り込んだ自分を感じる道である。


万葉公園に続く散歩道
横須賀市平作


 平作の城北小の裏手、大光寺の竹垣の手前を一歩入ると、土の感触が懐かしい自然道が開ける。躍動の季節の訪れに野鳥が楽しそうにさえずっている。
 大好きなケヤキの木に体を近づけて樹々の語らいに耳を傾けてみたら、「自慢の新緑を見て下さい」と言っているように思えた。コナラ、タブノキ、スダジイなどにまじってヤブツバキの可憐な紅が新鮮だ。秋にはムラサキシキブが林に色をそえるだろう。また、この雑木林から万葉公園にぬける小径は市指定緑地になっていて、年間を通じて色とりどりの花木が楽しめる。
 「ほんの数分でも山道を歩くと気もちいいんです」と、取材中に出会った青年が話してくれた。素朴な雑木林を愛する心が若い人達にも伝わっているようで嬉しかった。


童心が蘇るマテバシイの林
横須賀市長沢


 京急長沢駅から山側へ歩いて5分程。武山登山口になっている団地脇の階段を登っていくと、右手にぽっかりと日だまりの広場がある。正面にはひっそり立つ母子像が。
 今から21年前、横浜で起きた米軍飛行機事故で亡くなった林和枝さん親子のものだ。なぜこの場所に建立されたのかは定かでないが、散策で訪れる人達のメッセージが今なおノートに綴られている。母子像が見おろす東京湾は穏やかで、春の陽光にキラキラ輝いていた。
 改めて平和であることの大切さを思いながら雑木林の中を進んでいくと、足元にはたくさんのシイの実が落ちている。見渡す限りマテバシイの林が広がり、まるで“トトロ”の世界にでも迷い込んだかのよう。気分がすっかり解放され、なんだか幼い頃のことを思い出してしまった。
 ここから一時間も歩けば武山山頂に着く。5月の連休の頃にはちょうどツツジが見頃だろう。



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