かつて、北原白秋が愛した城ケ島に、いつの間にか薄い秋の雲がかかり始めた。クリアな空気に誘われて、車を城ケ島大橋下の県営駐車場(無料)に入れる。出口前方のバス停右側の道から歩き出すと、途端にハイキング気分のモードに切りかわった。今はちょうど夏と秋の分かれ目で、島全体に響き渡るセミの声は、秋に向って気が急いているような「ショッ・ショッ・ショッ」とクマゼミのものだ。しばらく歩くと海沿いの岩場を登ったり下ったりの遊歩道へ出る。余分な手を加えていない気分のよいコースだ。
 ところどころ、夏の宴の後の影響かゴミの忘れ物が。フナムシも多い。が、人の足の運びで放射状に逃げていき、さすが私に踏まれるのは一匹もいない。
 波がくだけ散るずっと先を見れば、八景原の断崖がそびえ、その台地上に、巨大な風力発電のプロペラがゆっくりと時計回りに廻っている。途中、「みずったれ」と呼ばれるポイントに出た。島の台地から、しぼり出るように流れる水は、古く頼朝の茶の湯に、又は矢たての水としても使われたといわれる。周辺には松の木が波間に突き出て、風情を添えている。この先もう少し岩礁のルートを進むと、ぱあっと開けた場所に出た。向うの岩盤上に安房崎燈台が見える。関係者用のものなのだろう、岩の上に、幅30センチにも満たないコンクリートの道が燈台下までつながっていた。「島のルート134号だ!」などと言いながら、踊るようにそこを歩いた。燈台を背もたれに座っていると、打ち寄せる波が胸の中までとどろき渡る。頭上をかもめが舞う。ふり返れば紫の花、ハマゴウの群落…、ハマカンゾウのたおやかな姿…と、静けさの戻った海辺の良さが味わえる。秋も深くなればイソ菊が人の目を引きつけるだろう。
 島の台地上、展望台からは丸い地球が感じられ、その向うに大島や三宅島が。駐車場まで歩いて万歩計は約5000歩だった。